笑顔で

おやき

2011年06月13日 06:04


おとといの心に響いた出来事のもうひとつ。

栄村からのたっぷりの山菜をいただいて心も豊かになって、駅前店へ向かいました。

スタッフと交代して2時間ほど経った午後5時過ぎに、若い女性がおひとりで来店されました。

ニコニコと入って来られたその女性は、並んでいるおやきをず~っと眺めながら「おやきもこんなにいろいろあるんですね」と笑顔で話しかけてきました。

「そうなんです。この店は母から継いで6年経つんですが、その間にどんどんメニューが広がっていってしまいました。」

「そうですか。わたし10年前に長野に来て以来、きょうが2度目なんです。随分と駅前も変わったし、おやきもこんなに種類が多くなったなあって思ってビックリしていたんです。」

「うちはヘンなおやき屋ですから」

「わたし福島から来たんです。新幹線の往復乗り放題一日一万円っていうキャンペーンがあって、それがきょう最終日だったんで、絶対に戸隠へ行こうって決めていたんです。お天気が心配でしたけど、雨も朝のうちだって聞いて、朝6時の新幹線で郡山から大宮経由で長野まで来ちゃいました。」

「郡山ですか。地震もそうですけど原発も、ですよね?」

「そうです。本当に地震はひどかったですけど、原発も毎日毎日どうなるんだろうって思うと怖いです。」

それから、彼女は心の内を静かに語り始めました。

大震災からきょうでちょうど3ヵ月。その日に戸隠に来たかったのは、その日を区切りに笑顔で生きようと思ったからだと。

地震で家も半壊し大事にしていたものも全て失った悲しみ。でもその悲しみを口にすることすら出来なかった。津波の被害に遭われた方たちのことを思うと、自分の苦しみなんて口にすることはできないと思って、ずっと口をつぐんできたと。

「そんな辛さと決別して、きょうから笑顔で生きていきます」ときっぱりと彼女は言いました。

愚かにも口を滑らせたわたしは、

「わたしたちは何かしたいと思っていながら何もできない。被災地の方々のことを思うと申し訳ない気持ちになりながら、普通の暮らしをしてしまっている自分がちょっと情けないです。」と言っていました。

すると、彼女が突然目をパチッとさせてわたしを見て言いました。

熱湯の中に一緒に入る必要はないんです! わたしたちは今熱湯の中にいます。そこに手を入れても火傷をするだけで、少しも良くはなりません。どうか熱が引くまでそばで見守っていてください。どうか笑顔でいてください。わたしたちはその笑顔を見て元気になれるんです。」

わたしはただただ感動して、彼女を見ていました。

話の端々で彼女が大事な人を失ったのだろうと推測できました。でも戸隠に来たことで、心に区切りがついたのだと思います。いえ、思いたい。

これからは笑顔で頑張る彼女が目に見えるようでした

「おやき」は信州のスローフードです。
「ふきっ子のお八起」HP→http://www.fukikko-oyaki.com/

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